実施しているのは2%。知っていても手が止まる理由

モバイル社会研究所が2026年1月に実施した調査(全国の60〜84歳男女、有効回答1,300人、訪問留置調査)によると、デジタル終活の認知度は3割弱、実際に何らかの取り組みを行っている人は2%でした。知っているが実施していない人は26%を占めています。

同じ調査で、実施しない理由の上位3つは次のとおりでした。1位が「何から始めればよいか分からない」、2位が「パスワードが分からなくなっている」、3位が「家族にどのように共有すべきか分からない」です。

つまり、必要性を感じていないから手をつけていないのではありません。入口が分からないから止まっているというのが実態です。このページが手順だけに絞っている理由もそこにあります。

なお同調査では、年齢が上がるにつれて認知度は低下する傾向も確認されています。

全国の60〜84歳1,300人のうち、デジタル終活を「している」が2%、「知っているが、していない」が26%、「知らない」が72%であることを示す帯グラフ。「している」2%はごく細い帯として示されている。
「している」はこの細さです。知っているのに手が止まっている人が26%います。

今から考えておきたい「デジタル終活」−スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために−

出典: 国民生活センター 報道発表資料(2024年11月20日)

ロックは、実は76%が開いている

デジタル終活の話題では「ロックが解除できず、写真も連絡先も永久に取り出せなくなる」という語られ方をよく見かけます。ですが、調査の数字はそこまで悲観的ではありません。

GOODREIが2025年3月に実施した調査(故人のスマートフォンのロック解除を試みた遺族381名、平均年齢44歳、Webアンケート)では、76%が解除に成功しています。手法別に見ると、故人が普段使っていたパスワード等を試した場合の成功率が76%、生年月日などから推測した場合が54%でした。

一方で、解除を諦めた人もいます。その理由は上位3つで74%を占め、「現実的に不可能と判明した」「解除に労力がかかりすぎる」「パスワード誤りの上限回数に到達した」でした。

解除を試みた遺族381人のうち76%が解除でき、24%ができなかったことを示す帯グラフ。諦めた理由の上位3つで74%を占めることも併記されている。
4件に3件は開いています。ただし諦めた人の中には、暗証番号の上限回数に達してしまった人がいます。
遺族がロック解除を試みた理由(GOODREI調査・上位3つ)
目的割合
連絡先の確認22%
データ・写真の取り出し21%
LINEなどメッセージの確認16%

本当に困るのは、開いた後の「見えない契約」

国民生活センターが2024年11月20日に出した注意喚起のタイトルは、「スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために」というものです。問題の中心はロックではなく、契約の方だと公的機関が位置づけていることが分かります。

スマートフォンが開いたとしても、アプリの一覧を眺めるだけでは、どこと何の契約を結んでいるかは分かりません。解約の手続きに進めないまま、口座から引き落としだけが続きます。家族が探すことになるのは、たとえば次のようなものです。

  • ネット銀行の口座(通帳も明細も届かない)
  • 証券口座・積立の設定
  • 月額のサブスクリプション
  • 通信販売の定期購入
  • クレジットカードに紐づいた継続課金

国民生活センターは、消費者へのアドバイスとして次の4点を挙げています。スマートフォンのパスワード等を安全に管理すること、ネット銀行やサービスの情報をまとめて記録しておくこと、デジタルロックの解除方法も確認しておくこと、信頼できる者に情報を共有しておくことです。

AppleとGoogle、それぞれ何ができるか

この4点のうち一部は、AppleとGoogleが用意している機能で肩代わりできます。Appleは「故人アカウント管理連絡先」、Googleは「アカウント無効化管理ツール」です。ただし設定しただけでは足りません。 何が対象で、何が対象外なのかを先に押さえてください。

AppleとGoogleの設定でできること・できないこと
確認する点Apple「故人アカウント管理連絡先」Google「アカウント無効化管理ツール」
どういう仕組みか死後に、指定した相手がアカウント内のデータへアクセスを申請できる一定期間アカウントが使われないと、データを共有または通知する
相手に必要なもの生前に発行されるアクセスキーと、死亡証明書の両方事前に連絡先として指定されていること(10人まで指定可)
対象になるデータApple アカウント内のデータGmail、ドライブ、YouTube、Blogger など(共有できない情報もあり)
対象にならないもの他社と結んだ契約(ネット銀行・証券・通販の定期購入など)同じく、他社と結んだ契約はすべて対象外
設定する場所端末の設定内(手順と対応OSは公式サポートページを参照)myaccount.google.com/inactive

表の4行目が要点です。どちらの設定も、その会社のサービスにしか及びません。 ネット銀行も通信販売の定期購入も対象外で、ここは自分で書き残すしかありません。

なおAppleは、設定しただけでは相手はデータを見られません。生前に発行されるアクセスキーを実際に渡しておくか、保管場所を伝えておくところまでが1セットです。Googleは、最終ログインや「マイ アクティビティ」、Gmailの利用状況などから利用の有無を判定するため、しばらくログインしていないだけで作動するものではありません。

紙に残す3つの項目

前述のGOODREI調査では、遺族に「生前にしてほしかったこと」を尋ねています。回答の上位3つが、そのまま紙に残すべき項目になります。最多だったのはスマートフォンのロック解除方法を教えることでした。

  • スマートフォンのロック解除方法(パスコード、または解除の手がかり)
  • 重要な連絡先のリスト
  • 各種サービスのID・パスワード(特にネット銀行、証券、月額課金のあるもの)
  • 口座引き落としのある契約の一覧(サービス名と、解約窓口が分かる情報)
  • AppleのアクセスキーやGoogleの設定を行った場合は、その旨と保管場所

やってはいけないこと

手当たり次第にパスワードを試さない。 GOODREI調査で解除を諦めた理由の一つが「パスワード誤りの上限回数に到達した」ことでした。回数制限のある端末では、試行を重ねるほど開けなくなります。心当たりのある候補を絞ってから試すのが安全です。

「安全に管理する」を省略しない。 国民生活センターのアドバイスは「パスワード等を安全に管理する」です。紙に書くこと自体は否定されていませんが、誰の目にも触れる場所に置けば、生前のリスクを自分で作ることになります。通帳や実印と同じ扱いができる場所を選んでください。

AppleとGoogleの設定で終わりにしない。 前述のとおり、これらの設定はそれぞれの会社のサービスにしか及びません。契約の一覧は別に残す必要があります。

エンディングノートを使う場合、デジタル分は自分で足す

エンディングノートの書き方を調べてここにたどり着いた方へ、デジタル分の残し方だけを足しておきます。国民生活センターはデジタル遺品の対策として4点を挙げていて、その1つが「エンディングノートの活用も検討しましょう」です。ノートを使うこと自体は、公的機関も対策として挙げています。

ただし、用意しただけでは終わりません。同センターの相談事例には、コード決済サービスの相続手続きが1カ月以上たっても終わらない、というものが挙がっています。長引く理由は、故人がどこと契約していたのかを遺族が特定できないことです。ノートのどの欄にそれを書くのかを、書き始める前に決めておく必要があります。

ノートの様式は、市販のものでも配布されているものでも、項目があらかじめ決まっています。前の章に挙げた5つの欄が最初からそろっているとは限りません。足りない欄があれば、余白か別紙に足してください。 ノートを買い直す必要はありません。デジタル分の残し方を決めるのは、様式ではなく中身の方です。

「うちはスマホを使っていないから」で外れる範囲は、思ったより狭い

デジタルの欄は自分には関係ない、と判断する前に確認しておきたい数字があります。国民生活センターは注意喚起の冒頭で、スマートフォンでインターネットを利用する人の割合として、20〜59歳の各年齢層で約9割、60代で78.3%、70代が49.4%という数字を挙げています(出典は総務省の通信利用動向調査)。

70代でも半数近くが該当します。通話にしか使っていないつもりでも、端末を持っている以上、アプリ経由の契約が残っている可能性は残ります。判断を急がず、まずは前の章のチェック項目に沿って、契約が実在するかどうかを確かめてください。

エンディングノートの活用を対策として挙げている記述、コード決済サービスの相続手続きに関する相談事例、スマートフォンでのインターネット利用率は、いずれも国民生活センターの注意喚起「今から考えておきたい『デジタル終活』」(2024年11月20日公表)で確認しました。利用率の原典は総務省の通信利用動向調査です。

今すぐ始めた方がいい人・先に家族と話した方がいい人

今すぐ始めた方がいい人

  • ネット銀行、証券口座、月額課金のサービスを1つでも使っている人
  • スマートフォンでしか確認できない契約がある人(紙の明細が届かないもの)
  • 家族がスマートフォンの操作に慣れていない人
  • 一人暮らしで、契約内容を把握している人が他にいない人

先に家族と話した方がいい人

  • 情報を渡す相手を誰にするか決まっていない人(Appleのアクセスキーも、Googleの通知先も、相手を指定する必要があります)
  • 見られたくないデータと、渡したいデータを分けたい人(共有範囲を先に決めてから設定した方が手戻りがありません)
  • 相続や名義の扱いに具体的な不安がある人(法的な手続きについては、弁護士・司法書士など専門家の窓口で相談できます)

よくある質問

デジタル終活は、何から始めればいいですか?

故人のスマートフォンのロック解除を試みた遺族への調査では、「生前にしてほしかったこと」の最多回答がスマートフォンのロック解除方法を教えることでした。次いで重要な連絡先リスト、各種サービスのID・パスワードが挙がっています。まずはロックの解除方法を、信頼できる家族に伝わる形にしておくところからです。

スマートフォンのパスワードを紙に書いて残しても大丈夫ですか?

国民生活センターは「スマートフォンのパスワード等を安全に管理する」「信頼できる者に情報を共有する」ことを消費者へのアドバイスとして挙げています。書き残すこと自体を否定してはいませんが、安全な管理が前提です。誰の目にも触れる場所ではなく、通帳や実印など重要書類と同じ管理をしている場所に置く、といった判断が必要になります。

家族が亡くなった後、スマートフォンのロックは解除できますか?

故人のスマートフォンのロック解除を試みた遺族381名への調査では、76%が解除に成功しています。ただし解除を諦めた人の理由には「パスワード誤りの上限回数に到達した」が含まれます。むやみに試すと、かえって開けなくなる可能性があります。

AppleやGoogleの設定をしておけば、それで十分ですか?

十分とは言えません。Googleは公式ヘルプで、アカウント無効化管理ツールについて「共有できない情報もあります」と記載しています。またネット銀行や各種サブスクリプションなど、AppleやGoogle以外の事業者と結んだ契約は、これらの設定の対象外です。契約そのものの一覧を別に残す必要があります。

デジタル終活をしている人は、どれくらいいますか?

全国の60〜84歳の男女1,300人を対象とした2026年1月の調査では、デジタル終活の認知度は3割弱、実際に何らかの取り組みを行っている人は2%でした。知っているが実施していない人が26%を占めています。

今日やることは、一つだけで十分です

紙を1枚用意して、スマートフォンのロック解除方法を書いてください。それを通帳や実印と同じ場所にしまう。ここまでで、遺族が「生前にしてほしかった」と最も多く答えたことは終わります。契約の一覧やAppleとGoogleの設定は、次の休みの日で構いません。