先に結論―「月いくら」に公的な答えは無い。だから書かない

タイの生活費を調べると、月○万円で暮らせるという数字が並びます。しかし、その多くは個人の体験談です。日本の公的機関やジェトロが出している資料の中に、タイに住む日本人の家計を月額で示した統計は見つかりませんでした。だからこのページでは、平均額を断定しません。

代わりにできることがあります。生活費の見積もりを、確定できる部分と、確定できない部分に分けることです。確定できるのは、為替、物価の動き、そして日本側の制度で決まっている支出です。確定できないのは、住む場所と住居、そして医療費の実額です。この切り分けができていれば、他人の数字を鵜呑みにせずに自分の額を作れます。

確定できるもの1―物価の動きは、直近だけを見ない

ジェトロの基礎的経済指標によると、タイの消費者物価上昇率(単位%)は2022年が6.1、2023年が1.2、2024年が0.4と推移しています。出所はタイ国家経済社会開発委員会(NESDC)です。

読み方に注意が要ります。直近の0.4だけを見て「物価はほぼ動いていない」と考えると、2022年の6.1を見落とします。数年の間に、この幅で振れる国だということです。移住後の家計は数年から十数年続きます。直近1年の数字ではなく、振れ幅のほうを前提に置いてください。

参考までに、同じ資料では実質GDP成長率が2024年で2.5、失業率が1.0、1人当たりGDPが7,492米ドルとなっています。国全体の経済は堅調な部類ですが、これらは家計の支出額とは別の指標です。生活費の代わりには使えません。

確定できるもの2―為替。ただし米ドル建ての数字では足りない

ジェトロが載せている為替レートは、1米ドルにつきバーツの期中平均で、2022年が35.1、2023年が34.8、2024年が35.3です。バーツは対米ドルでは比較的落ち着いて推移しています。

ただし、ここに落とし穴があります。日本から移住する人の収入は円建てです。年金も円で支払われます。つまり効いてくるのは円とバーツの関係であって、米ドルとバーツの関係ではありません。米ドル建ての安定を見て「為替は落ち着いている」と判断すると、円の側が動いたときに家計が直撃されます。

実務的には、生活費の何割を円建て収入に依存するかを先に決めておくことです。全額を円建て年金に頼る設計なら、為替が動いた分だけ生活水準が動きます。日本側に取り崩せる資産を残しておくか、支出を圧縮できる余地を持たせておくか、どちらかの備えが要ります。

確定できるもの3―日本側の制度で決まる支出は、現地の物価と関係なく効く

見落とされやすいのがここです。タイの物価がいくら安くても、日本側の制度で決まる負担は減りません。2つあります。

1つめは年金にかかる税です。日本年金機構は、租税条約が締結されていても年金条項がない等の理由で適用にならない国としてタイを挙げています。つまり、老齢年金を受け取りながらタイに住む場合、租税条約による所得税の免除は使えません。免除がある前提で手取りを見積もると、その分だけ生活費の原資が減ります。詳しくは年金は海外でも受け取れるかにまとめました。

2つめは医療費です。海外療養費は日本国内で同じ傷病を治療した場合の治療費を基準に計算され、日本国内で保険診療として認められていない医療行為は対象外、審査には数か月かかり、支給は海外への直接送金ができません。現地での支払いは全額自己負担が前提になり、戻る額も日本の治療費が上限です。持病があるほど、この差は生活費に効いてきます。詳しくはタイの医療と日本の健康保険です。

この2つは現地の物価とは無関係に、日本側の制度として決まっています。生活費の試算をするなら、まずここを固定費として引いてから、現地の支出を積むほうが順序として正しくなります。

確定できないもの―住む場所と住居。だから他人の平均額は使えない

タイの人口は6,581万人、首都バンコクの人口は542万人です(2025年、出所:内務省)。国土は51万3,115平方キロメートルで、日本の約1.4倍あります。バンコクとチェンマイと地方部を「タイ」と一括りにした平均額に、意味がないことが分かります。

気候も支出に効きます。外務省によれば、タイ国土の大部分は熱帯モンスーン気候で雨季と乾季に大きく分かれ、3月から5月頃は一年中で最も暑く高温多湿です。冷房をどれだけ使うかで、住居の光熱費は変わります。この点も、他人の家計をそのまま持ってこられない理由の一つです。

下見をするなら、滞在中に自分で家賃と食費と光熱費を実測してください。滞在そのものの手続き(ビザなしで認められる滞在期間や、中長期の査証)は海外転出届を出す前にに整理しています。移住前の家計の棚卸しは50代からの家計相談から辿れます。

よくある質問

タイの生活費は月いくらですか?

このページでは断定しません。家計単位の生活費を示す公的な統計が見つからないためです。検索すると月○万円という数字が多く出てきますが、出所は個人の体験談であることがほとんどで、住む場所、住居の種類、医療費、そして為替によって大きく変わります。代わりに、公的資料で確定できる要素だけを積み上げる方法をこのページにまとめました。

物価はどのくらい上がっていますか?

ジェトロの基礎的経済指標によると、消費者物価上昇率(単位%)は2022年が6.1、2023年が1.2、2024年が0.4と推移しています(出所はタイ国家経済社会開発委員会)。直近は落ち着いていますが、数年単位では大きく振れています。

為替はどう見ればいいですか?

ジェトロが載せている為替レートは、1米ドルにつきバーツの期中平均で、2022年が35.1、2023年が34.8、2024年が35.3です。ただし日本から移住する人の生活費は円建てで動くため、この米ドル建ての数字だけでは足りません。円とバーツの関係を別に確認してください。

生活費のうち、日本側から出ていくお金はありますか?

あります。タイは日本との租税条約に年金条項がないため、年金にかかる所得税の免除が使えません。また海外療養費は日本国内の治療費を基準に計算され、審査に数か月かかり、海外への直接送金もできないため、現地の医療費は自己負担が前提になります。この2つは日本側の制度で決まっており、現地の物価とは無関係に効いてきます。

消費者物価上昇率、実質GDP成長率、失業率、1人当たりGDP、為替レート(1米ドルにつきバーツ、期中平均)、人口、面積はジェトロ「タイ 概況・基本統計」(2026年6月30日最終更新)の基礎的経済指標および一般的事項で確認しました。数値は同資料の表に単位が別欄で記載されているため、本文では単位を明示したうえで数値のみを引用しています。気候と健康管理上の留意点は外務省 海外安全ホームページ「タイ 安全対策基礎データ」です。タイに住む日本人の家計を月額で示した公的統計は見つからなかったため、生活費の平均額は記載していません。

出典・参考リンク

ジェトロ タイ 概況・基本統計(2026年6月30日最終更新)
外務省 海外安全ホームページ タイ 安全対策基礎データ

確認日: 2026年8月11日

経済指標は毎年更新されます。渡航前には、ジェトロの該当ページで最新年の数値をご確認ください。為替は日々動くため、円とバーツの関係は取引金融機関の公表レートでご確認ください。