先に結論―「海外転出届」は1つの手続きではなく、4つの引き金

海外転出届を調べてこのページに来た方へ、先に全体像をお伝えします。日本を離れる手続きは、役所の窓口で1枚出して終わり、という形にはなっていません。住民票の扱いを決めるのは市区町村ですが、それとは別に、国の側で動かす手続きが3つあります。在留届、年金の受取先、税の納税管理人です。窓口も期限も別々です。

この4つは、それぞれ担当している役所が違います。順に見ていきます。タイ側の滞在資格(ビザ)は、これらとはまったく別の話なので、最後にまとめました。

日本側で確認する4つ

  • 住民票をどうするか(市区町村の窓口)― 扱いは自治体が決めるので、必ず居住地の窓口で確認する
  • 在留届(外務省)― 3か月以上滞在するなら義務。出発の3か月前から提出できる
  • 年金の受取先(日本年金機構)― 年金を受けているなら届出が必要。提出期限は年金支払日の前々月末日
  • 納税管理人(国税庁)― 確定申告等が必要になる場合に選任し、税務署長に届け出る

住民票の転出届は、断定しないで窓口に聞いてください

検索で最も多く調べられているのは「海外転出届」という言葉ですが、住民票をどう扱うかは市区町村が窓口で判断する事柄です。このページでは、国の公的資料で裏の取れない条件を断定して書くことはしません。必要書類や代理人による提出の可否、郵送で受け付けるかどうかは、居住している市区町村の窓口に直接確認してください。

そのうえで押さえておきたいのは、転出の届出を済ませても、以下の3つは自動的には終わらないということです。むしろ「日本を離れる」と決まった時点から、それぞれ別に動かす必要があります。期限が最も早く来るのは年金です。

在留届は「出しておくと安心」ではなく、義務

外務省は、3か月以上海外に滞在する場合、旅券法第16条により在留届の提出が義務付けられている、と明記しています。旅行者向けの任意登録である「たびレジ」とは性格が違います。長期滞在する人が対象の、法律に基づく届出です。

提出のタイミングにも余裕があります。在留届は日本出発の3か月前から提出することができます。渡航先が決まった時点で先に済ませておけば、出発前の慌ただしい時期に一つ減らせます。提出は外務省の在留届電子届出システム(ORRnet)から行えます。

在留届を出しておくと、現地の日本大使館・総領事館からの緊急連絡が届くようになります。届出を怠っていると、有事の際に日本側から所在を把握できません。

年金―タイは、租税条約による所得税の免除が使えない

年金を受けている方が海外に住んで年金を受け取る場合、「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」の提出が必要です。海外の金融機関を振込先に指定するときは、口座証明や通帳の写しなどの添付も求められます。提出期限は年金支払日の前々月末日です。日本側の手続きの中で、いちばん早く締切が来るのはここです。

手取りの計算で取り違えやすいのがここから先です。受けている年金が老齢年金で、日本と滞在国が年金の受け取りに関する租税条約を締結している場合、手続きをすれば税法上の非居住者が納めるべき所得税の免除を受けられます。ただし日本年金機構は、日本と租税条約が締結されていても、年金条項がない等の理由で適用にならない国や地域があるとして、カナダ、スウェーデン、中国のマカオ、アメリカ合衆国のプエルトリコやグアムと並べて、タイを名指しで挙げています。

つまり、タイに住んで日本の年金を受け取る場合、この免除は使えない前提で考える必要があります。「海外に住めば年金の所得税が免除される」という一般論をタイに当てはめると、手取りの見込みが狂います。

振込先について、海外にお住まいの方でも日本国内の金融機関を指定することはできます。ただし「ゆうちょ銀行」を振込先として指定することはできません。海外の金融機関へ送金する場合は、国ごとに送金通貨が指定されており、希望する通貨を個別に選ぶことはできません。

もう一つ、年金生活者支援給付金を受けている方が海外に転出した場合、この給付金は支給されません。年金事務所に不支給事由該当届を提出することになります。年金の受け取り方については、年金は海外でも受け取れるかで、現況届や必要書類まで詳しくまとめています。

税―確定申告が要るなら、納税管理人を決めて届け出る

国税庁は、非居住者が確定申告書の提出、税務署等からの書類の受け取り、税金の納付や還付金の受け取り等、納税義務を果たすために納税管理人を定める必要がある、としています。日本を離れた後も、日本国内で発生した一定の所得には引き続き日本の所得税が課税されるためです。

対象になりやすいのは、日本国内の不動産を貸している場合です。国税庁は、確定申告書の提出が必要になる例として、国内にある資産の運用または保有により生じる所得、国内にある資産の譲渡により生じる所得、国内にある不動産等の貸付けにより受け取る対価、国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく一時金を挙げています。持ち家を人に貸してタイへ、という形は、まさにこれに当たります。

手続きは、納税管理人を定めたうえで「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を、その非居住者の納税地を所轄する税務署長に提出します。納税管理人は法人でも個人でも構いません。届出書を提出した以後、税務署が発送する書類は納税管理人あてに送付されますが、確定申告書そのものは納税地を所轄する税務署長に提出します。

なお、非居住者に当たるかどうかの判定は、国税庁の説明では日本国内の会社に勤めている給与所得者が海外の支店などに転勤する場合を例に書かれています。退職して移住する場合の判定は事情によって変わるため、税務署または税理士に確認してください。

タイ側の滞在資格―観光の60日と、それ以上を分けて考える

ここまでが日本側です。タイに入る側の話は、まったく別の窓口になります。外務省の安全対策基礎データによれば、日本国旅券所持者は、入国目的が観光の場合、ビザなしで60日間の滞在が認められています。中・長期滞在の場合は、入国前にあらかじめ滞在目的に応じた査証を取得する必要があります。

加えて、タイ入国管理局はタイデジタル到着カード(TDAC)を導入しており、陸路・海路・空路を問わず、タイに入国するすべての非タイ国籍者がオンライン登録を求められます。登録はタイ到着の3日前(到着日を含む)から可能です。外務省は、公式サイト以外を使ったために料金を請求されたりクレジットカード情報を入力させられたりするトラブルが起きているとして、偽サイトへの注意を呼びかけています。

リタイアメントビザ(ロングステイ)の要件と資金証明の金額について、このページでは書きません。日本語で読める公的な一次資料が見つからないためです。駐日タイ王国大使館のサイトは、必要書類はタイ外務省のE-VISA公式サイトに各ビザタイプ別に記載されている、と案内しており、その公式サイトは英語です。外務省も、タイ政府の各種査証・入国手続や規則等は事前の通告なく変更されることがあるとして、駐日タイ王国大使館、在大阪タイ王国総領事館、在福岡タイ王国総領事館、タイ王国入国管理局に確認するよう案内しています。

金額や年齢の条件を、日付の入っていない個人ブログや要約記事から拾わないでください。変更が事前通告なしに起きる領域です。必ず上記の公式窓口で、その時点の条件を確認してください。

決める前に、短期の下見で日常を試す

手続きを読んでも移住を決めきれないなら、先に短期の下見を入れてください。タイ移住前の下見で確かめる7項目では、観光ではなく、街の時間帯、暑さ、移動、買い物、住まい、医療、スマホ通信を生活者の目で試す順番を整理しています。

日本の健康保険がタイでどう扱われるか(海外療養費の申請と、その対象外)は、タイの医療と日本の健康保険にまとめています。生活費の見立てはタイの生活費をどう見るかです。移住前の家計の棚卸しは50代からの家計相談、備え全体の整理は暮らしの備えから辿れます。

よくある質問

海外転出届を出すと、何が変わりますか?

住民票の扱いそのものは市区町村の窓口が判断しますが、日本を離れることが決まると、それに連動して国の側の手続きが動きます。在留届の提出(3か月以上の滞在なら義務)、年金を受け取っている方の受取先の届出、確定申告が必要な方の納税管理人の届出です。窓口が別々なので、転出届を出せば自動的に全部終わる、ということはありません。

在留届は必ず出さないといけませんか?

外務省は、3か月以上海外に滞在する場合、旅券法第16条により在留届の提出が義務付けられていると明記しています。任意の登録ではありません。提出は日本出発の3か月前からできるので、渡航が決まった時点で先に済ませておけます。

タイで年金を受け取ると、所得税は免除されますか?

タイは対象外です。日本年金機構は、日本と租税条約が締結されていても年金条項がない等の理由で適用にならない国や地域があるとして、カナダ、スウェーデン、中国のマカオなどと並べてタイを挙げています。租税条約による所得税の免除を前提に手取りを計算しないでください。

年金の振込先は、日本の口座のままにできますか?

できます。日本年金機構は、海外にお住まいの方でも日本国内の金融機関を年金の振込先として指定できるとしています。ただし「ゆうちょ銀行」を振込先として指定することはできません。海外の金融機関へ送金する場合は、国ごとに送金通貨が指定されており、希望する通貨を個別に選ぶことはできません。

タイのリタイアメントビザの条件を知りたいのですが。

このページでは書いていません。日本語で読める公的な一次資料が見つからないためです。外務省は、タイ政府の各種査証・入国手続や規則等は事前の通告なく変更されることがあるとして、駐日タイ王国大使館、在大阪・在福岡のタイ王国総領事館、タイ王国入国管理局に確認するよう案内しています。金額や年齢の条件は、必ずこれらの公式窓口で確認してください。

在留届の義務と提出可能時期は外務省「たびレジ・在留届」、年金の届出・提出期限・租税条約の適用外の国・ゆうちょ銀行の指定不可・年金生活者支援給付金の不支給は日本年金機構「年金を受けている方が海外に居住するとき」(2025年12月5日更新)、納税管理人と確定申告が必要な所得の区分は国税庁タックスアンサーNo.1923(令和7年4月1日現在法令等)、観光のビザなし滞在とTDACおよび査証の確認先は外務省 海外安全ホームページ「タイ 安全対策基礎データ」で確認しました。住民票の転出届の要件は、国の公的資料で確認できなかったため断定していません。

出典・参考リンク

外務省 たびレジ・在留届(在留届電子届出システム)
日本年金機構 年金を受けている方が海外に居住するとき(2025年12月5日更新)
国税庁 タックスアンサー No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任
外務省 海外安全ホームページ タイ 安全対策基礎データ
ジェトロ タイ 概況・基本統計

確認日: 2026年8月11日

制度・手続きは変更されることがあります。特にタイ側の査証および入国手続は事前の通告なく変更される場合があるため、渡航前に必ず公式窓口で最新の条件をご確認ください。